社長ブログ

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酵母と麹と酵素と

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ながくお酒に関わってきたので、ときおりお酒のことに関して一般の方々がどの程度の知識をお持ちなのか分からなくなることがある。

 

先日もある方と話をしていたのだが、どうにも話がかみ合わない。しばらく話して、ようやく先方が酵母と麹(こうじ)を混同していることに気が付いた。酵母と麹とそして酵素。この三つは名前が似ているばかりではなく、すべて酒造りに深くかかわるものである。しかし、全く違うものでもある。その辺りをちょっと話しておこう。
「この3つなかで、ひとつ仲間外れのものは?」
と聞かれたら正答できる方は、どのくらいいるのだろう。
7割くらいのかたは判るのだろうか?いや、もしかしたら半分くらいの方しか判らないのか?

 

このなかで、酵母と麹は生き物であり、酵素はある種の分子の総称である。したがって、酵素だけは、生き物であるほかのふたつとは異なる。しかし、酵母と酵素には切っても切れない関係がある。そもそも、酵素 (enzyme)という語は酵母の中 (in yeast) という意味のギリシア語の “εν ζυμη”(en zymi) から名付けられたのである。それは、近代科学を大きく発展させた、「発酵は、酵母という生物がおこなう現象なのか、あるいは、無生物の化学変化なのか。」という探求過程を経て、最終的にいきものである酵母の中の酵素という物質の働きで発酵が起こることが判ったからなのである。それほどまでに、酵母と酵素の関係は深い。

 

いまでは、お酒は、酵母が糖分をたべて、エネルギーをうみ出す際に、その副産物としてアルコールがつくられること、またその過程で、自らがつくるたくさんの酵素の力を借りることが判っている。そして、ビールつくりにおいては、酵母がうみだす酵素以外に、原料である麦芽のなかの酵素も大きな役割を担っている。ビール造りの一番最初の工程は、麦芽を挽いてそれをお湯に浸すことから始まる。これによって、麦芽の中の酵素の力で、麦芽の中のデンプンが小さく切られて酵母が食べられる大きさまで小さくなる。そして、できた糖分を酵母が食べるのである。

 

さて、ようやく最後の麹のせつめいである。もうしばらくお付き合いいただきたい。ビール造りはこうして、発芽した麦、いわゆる麦芽の中の酵素の力でデンプンを切っていくのだが、日本酒や味噌、醤油を造るときは、麹というカビの力をかりてデンプンやたんぱく質などの高分子を分解するのだ。テレビで、蒸した酒米に真っ白な麹が生えたを映像を見たことがある方もあろう。こうしたカビを使う醸造技術は日本を含む東アジアや東南アジアで高度に発達している。それは、湿度の高い気候がカビの生育に合っているからだろう。
酵母と麹と酵素、お判りいただけただろうか。

 

伊勢角屋麦酒
代表取締役社長 鈴木成宗